「ちょっと電話いい」と少し深刻な電話の向こうの相手。

 「どなたでしたっけ」と深刻な声を出す受話器の向こう側の相手に聞き返す私。

 「え、忘れちゃったの」と少し寂しそうな声を出す電話の向こうの相手。

 「うーん」と懸命に思い出そうとする私。

 「私だってば」と懸命に自己主張をする受話器の向こうの相手。

 「何処か聞き覚えがある声」だと受話器の向こうの相手に伝える私。

 「少しだけ声が変わったのかな」とごまかす受話器の向こうの相手。

 「どうして、電話番号を知っているの」と受話器の向こうの相手に聞く私。

 「え、忘れちゃったの」と少し寂しそうな声を出す電話の向こうの相手。

 「仕方がない。本人に変わるね」と言う受話器の向こうの相手。

 「やはり」と電話の向こうの相手のぼやく私。

 「何、長話しているの」とお餅を焼いている受話器の向こうの相手。

 「正月じゃないのにどうして」と受話器の向こうの相手に質問する私。

 「季節は夏だよ」と言う受話器の向こうの相手。

 「こちらは冬だよ」と受話器の向こうの相手に言う私。

 「競馬は好きじゃないの」と質問する受話器の向こうの相手。

 「誰かと人違いしているんじゃない」と受話器の向こうの相手をあしらう私。

 「だから花火大会だって」と少し騒ぐ電話の向こうの相手。

 「競馬場で花火大会なんかあるんだ」と電話の向こうの相手に言う私。

 「キャー殺される」と騒ぎ始める受話器の向こうの相手。

 「はあ」と受話器の向こうの相手にキレる私。

 「やばい。殺される。誰かが付いて来ている」と恐怖が迫っている様子を伝える受話器の向こうの相手。

 「嘘つくな」と受話器の向こうの相手をあしらう私。

 「もういい」とキレ電話を切る受話器の向こうの相手。

 受話器の向こうの相手とのやり取りを思い出し、再度連絡する私。

 「ぷぷぷ」

 「お客様の都合によりおつなぎできません」と対応する電話。

 慌ててスマホでメールを打つ私。

 「お届け先が見当たりません」と返信されて来るメール。

 スマホを放置する私。

 数時間後にスマホの向こうの相手からの電話。

 「どうしたの」とスマホの向こうの相手。

 「届かなかったんだけど」とスマホの向こうの相手に質問する私。

 「私はずっとあなたのそばにいたよ」と言うスマホの相手。

 「嘘つくな」とスマホの向こうの相手に言う私。

 「じゃあ、切るね」とスマホを切るスマホの相手。

 「またか」とつぶやく私。

 私のつぶやきが、気が付いたら、至る世界に拡散されていた。

 「今つぶやいた」とつぶやく相手。

 「気が付いたら、つぶやいていた」という私。

 「もうそろそろ夏だね」とつぶやく相手。

 「まだ初夏だ」とつぶやく私。

 私がつぶやいたことが、他人の目に触れたことを思い知らされる数日後。

 「どうしたの」と書き込む相手。

 「どうもしない」と書き込む私。

 「そういえば、夏だね」と書き込む相手。

 「浴衣祭りだね」と書き込む私。

 「浴衣祭りの後、どうする」と書き込む相手。

 「暇」と書き込む私。

 「居酒屋でいっぱいかけない」と書き込む相手。

 「少しだけ」と書き込む私。

 浴衣祭りで初めて対面し、予約した居酒屋に行き、どちらが先に予約するか躊躇する2人。

 テーブルに店員を呼ぶボタンを同時に押し、照れる2人。

 それと同時に、1人がもう1人を睨みつける。

 「へい。ご注文は」と店員に聞かれるや否や、1人は「取り敢えずビールで」と言い、もう1人は「冷酒で」と言う。

 店員が「他にご注文は」と聞くと、店員を睨みつける2人。

 慌ててそのテーブルから離れる店員。

 店員がいなくなってから、注文した品について揉めている2人。

 1人が「なんで冷酒なんだよ」と言い、もう1人が「なんでビールなんだよ」と言う。

 1人が冷酒とビールが届くやいなや、ミックスを始める。

 「ファイバー。ファイバー」と。

 その光景を見ていたもう1人が、「言いたいことがあるんだよ」と言い始める始末。

 2人に共通していることがあることに気がつく店員。

 「お客さん、飲み物に写真をさすのは」と言う店員。

 店員に対して、懸命に飲み物に写真をさすのが主流だと説明する2人。

 「健康に悪いから」懸命に止める店員。

 「主流だ」と言い張り、写真をさし飲み続ける2人。

 やっと一杯目が終わり、おつまみを探す2人。

 1人は、ほっけ。

 もう1人は、からあげ。

 その注文を聞いた店員は、「喜んで」と再びテーブルを後にする。

 店員がから揚げを持って来るやいなや2人の空気が可笑しくなる。

 「おい、俺の写真を優先しろ」と1人が言う。

 「何言ってんだ」と言うもう1人。

 そこへ店員が「お客さん、からはからでも空と勘違いしていないか」と2人に言う。

 漸く2人は自分たちがから揚げを空と勘違いしていたことに気が付き、お互いに写真をしまい、から揚げとほっけをつまみにし、酒を食らうことにした。

 そして数日後、ネットで書き混み合う2人。

 1人はもう1人のことを。

 もう1人はもう1人のことを。

 良いことではなく、飲み物だけではなく、つまみまでに推しの写真をさし、店員に怒られたことを、恰も自分はそこにいなかったように書き込み合う。

 そして互いに互いの書き込みを見、懸命に反論することで再会する2人。

 たった1回しか会ったことがないにもかかわらず、永遠の愛を誓い合った人のラブストーリー。

 この2人がめでたく結ばれたかはあなたが続きを想像し、完結させて下さい。